「歌を歌って、元気に明るく美しく!」2.自分の気持ちはおまけくらいでいい
歌を歌い終わったプロの歌手に、こう聞いてみたとします。
あなたはあの素晴らしい歌を歌ってらっしゃったとき、何を考えて歌ってらっしゃったんですか? と。
「故郷に残してきた母のことを思いながら」とか、「病室で私のことを応援してくれている彼のために」とか。いろいろなことをいいます。
たしかにそういうのはあるわけです。
でもそれは歌いはじめる前に大概みんな思ってることで、歌いだしたらそんな悠長なことはいってられません。
悠長なことをいった瞬間に歌が崩れます。
たとえば私がここで『夕焼け小焼けの赤とんぼ』を歌ったとして、それが『松永敦の赤とんぼ』かといったら、そんなことはない、誰が歌っても『赤とんぼ』は『赤とんぼ』です。
何が言いたいのかというと、楽曲というのは作曲家、作詞家が精魂込めて作って完成した時点でもう、さん付けで呼びたいような固有の人格、魂を持ったものになっているということなんです。
ひとつの命を持った芸術作品です。
それを自分が歌うときに『この歌を自分色に染めてやろう』とばかりに妙な思い入れや意気込みを持つと、楽曲本来の伝えたいことが伝わらなくなるばかりか余計な雑念、余計なエネルギーが混ざってしまうんです。
ですから歌おうとする楽曲に乗せて何か自分の心、真心を届けようとするのはアリなんですけど、いってみればそれはお客さんに届ける手紙の封筒みたいなもの、っていう風に考えてもいいと思います。
手紙の中には肝心の大事な歌詞やメロディーが入っているわけですが、自分の気持ちはそこにおまけくらいにちょっと入っている、という感じ。それくらいでいい。
さっき歌を歌うということとスポーツは一緒、といいましたが、たとえば野球選手が誰かのためにホームランを打とう! と思ったとして、その気持ちを胸に、でも実際には野球というスポーツ、バットに球を当てて遠くに飛ばす、ということに集中して精一杯のパフォーマンスをしてい、る、ということ。そういうことです。
歌でいうなら歌詞やメロディーがあって、そのうしろに隠れたところに自分の気持ちがある、ということ、これが歌というものです。
これをハズしてしまうと歌は歌でなくなります。
歌を歌うことで絶対にやってほしくないことは、上手に歌おうとか、ええかっこして歌おうとか、あの人に届くかなとか、そういう余分な気持ちを歌に入れてしまうことです。
それよりもっと素直に譜面を追って、譜面通りに歌うだけでいい。
それだけでじゅうぶんです。