「発声が教えてくれる作曲法」5.何かを感じたら鼻歌、を習慣に。

いまご紹介したやり方はあんまり楽しくないんですけれど、これを参考にして途中まで作りかけた曲に入れてみて、鼻歌を歌って歌って歌いまくっていく、ってのもひとつの手なんです。
これはほんとに困ったときに使われたらいい方法です。

ここからがいちばん大切なところです。
人間のこころの中には、20年30年40年50年、ながーく生きてくるといろいろな経験があります。
日々とくべつ面白いことが何もない日常で、平々凡々に暮らしているとしても、生きたら生きた分だけの何かがあります。

さっきの5W1Hです。
いつ     When
どこに       Where
誰が         Who
誰と         Whow
何を         What

してたのか。
どんな風に? How

こういうことにあてはめて自分がいちばん感じ入ったもの、全然感じ入らないものってやっぱり歌にできないです。

わたしは昔、病気したことがあります。
お腹をちょっと切りました。
歩かれへん、こういうところを切ると。
もう松葉杖ついても最初はほんとに歩けなくて、涙がでてきました。
たった1センチの高さが越されへん。
トイレ行きたくて必死なんだけど、動かれへん。誰か、たすけて、みたいな。
で、看護婦さんに手伝ってもらって「すみません。ごめんなさい。
ありがとう」。それでやっと便器に座ってホッとするような状況でした。
でもまあ、そういうのは最初の1日だけ。
2日め3日めになったらシンドイけどだんだん歩けるようになってくる。
退院するとき、自分の足で立っていられる、歩けることがすごーくうれしかったです。
そういうことだってひとつの感動なんです。
いまでも憶えてます。

だからもしいま『歩く歌を書いてください』といわれたら、わたしはそういうのを書いちゃうと思います。
自分の人生の中でどこかでピン!とスポットライトが当たったとき、やっぱり何か困ったことから立ち直ったこと、すごくうれしかったこと、まさかこんな人がガールフレンドになってくれるとは思ってなかった人がガールフレンドになってくれて、すごくラブラブになれたとき、・・・と思っててまたしばらくしたらフラレた、とかね!
すごくいいとき悪いとき、いろいろあるんですけど、そういう感動の繰り返しがあればその人の人生は豊かになるわけで、そういう豊かな人は絵を描くのが上手だったり歌を書くのが上手なんですけどまずは何か探してみる。自分が日々見てきた・やってきたことの中で、すごく細かく自分の中に経験が残ってる。そういうものをストーリーにしていくと、意外とそこには音が隠れています。

そしたら、これは自分で意識的にやるわけです。
鼻歌を歌おう♪ ってやつです。
自分がそのとき、どこで、何をしていたかってことだけをイメージして、その情景の中に自分を飛び込ませて(その時の記憶を)呼び覚まさせるんですね。
で、そこで、どういう感じの鼻歌が歌えるか。
とにかく歌ってみるの。

すっごく好きな人がいて、ここでわたしに顔を向けてくれて、目と目が合って、「あ、どうもありがとうございます」って言った時に心臓がドキッ!ドキッ!と鳴って、そのハートビートがリズムになってメロディーになっていくかもしれない。

そういうように、何かハッとしたとき・思ったとき、何かで感じたとき・考えたときにすぐ鼻歌にするような訓練だけはするんです、いつでも。
そうすると、なんとはなしにメロディーって出てきます。

でもやっぱりそうそう簡単には出てこない、となったら自分の好きな歌を聴きまくるんです。とくに自分の好きな部分、そのコート進行、コード譜を一生懸命書いて弾いてみる。で、この音の流れ、わたしすごく好きだな、馴染むなと思ったら音を拾って書いてみる、メロディーつなぎあわせて遊ぶとか。
これ、すっごい時間かかります。
けど、すっごく楽しめます。

で、こういうことをずーっと延々やってると、なんか知らんけど曲ってのが自分の手の中に降りてきます。

そういうふうにして、ほんとに知らない間に曲っていうのと触れ合うことができるんですね、わたしたち。
いちばんに、誰でもできることというのは、日々の生活の中で一番感動したことを思いだし、それを鼻歌で表現して、、、、、、
こういうことをするときに、正しいとか間違いとかはないです。
まずやってみることです。
それを何度も何度も繰り返してやってる中で自分のポッケの奥底に忘れてしまったような、どっかの隅っこに残っていた事実、事件、感動。そういうものが見えてきて、これをもし音で表わしたらこんなふうになるのかなあー? と鼻歌を歌ってみるわけです。

これが作曲の第1ページとしてはいちばん親しみやすい、ポピュラーなやり方です。
絶対できますよ。
もちろんね、人って才能のある・ないはいろいろあります。
その中で才能のある人が作曲家になっていくわけですけれども、でも曲を作るってことは、これからロケット作って水星まで飛ばそう、っていうようなものではないです。
わたしたちの身体には立派な、声を出せる喉がありますし、指が動かせればギターなりキーボードが弾けて、それで音楽が奏でられるようにできてます。
そうしますとこういうことがいくらでもできるようになります。
ただ、ほんとうにいい曲を作るには、たくさんのいい音楽を聴くことと、たくさんの素晴らしい歌詞を読みこむことです。
それをふだんからしまくってないと、なかなかそうそう簡単には出てきません。
だって文字を知らないのに文章書きなさいって言っても無理ですよね。絵具も筆もないのに絵を描けって言っても無理です。
ふだんからそういうものに慣れ親しんで、馴染んでる、っていうのが必要です。
でもそれをやっていれば必ずできます。