「心地よいヴィブラートって どう歌う?」2.私たちの身体が、脳が、揺さぶられるヴィブラート。

日本語で私たちが『好きだなあ』というとき、私たち日本人は何故か『SU KI DA NAAAAAA・・・』と語尾を伸ばしていったほうが、気持ちが入ってくるんですね。
それは日本語だから、みんなが決めたからそうなったわけじゃなくて、これも細かいことを話すとすごく面白い話なんですけれども、ちょっと横道にそれますけれどもね、『黄色い声』ってありますよね?
10代20代のかわいい女の子たちが「きゃあ―」とかっていうときに出す声です。
でも、あんまり『紫いろの声』っていいませんね。
それ、どうしてかっていうと、黄色ってすごく周波数が高いんですよ。
『キーン!』っていう音なんかでも表わされるように、Kにくっついてくる音も非常に周波数が高くなるんですけれども、すごい高めの音をやるときには『彩度』、色の鮮やかさも実は周波数の高い音を相関づけて私たちは勝手に『黄色い声』って言っているんですね。
ぜったい黒い声とか紫色の声とかっていわないのはそのためです。

だからその中で、すきっとしてるね、というのと、もちゃっとしてるねみたいな感じ、そういうような音っていうのは全世界共通なんですよ、かなり。

たとえば日本語の『国』という言葉がありますね。KUNI。
国というのは、実はアイランド、島としての塊ではなくて、ひとつの政治システムを持った塊でもって国というんですけれども、その塊のク、という音とニっていうのは、英語で言うと『Nation』なんていいます。
そういうNのあたりを取ってきた(ちょっと話が言語学のほうにいってしまうんですけれども私は音声言語が専門なので)、KUNIはUNITEDと同じ音とってる。でもこれが知らないうちに取っちゃってたんです。
後で『United State of America』とか、KUNIなんてやってますけど、実はこういうのはいっぱいあります。

・・・っていうふうに音の重なりっていうのはいろいろあるんですけれど、話を戻すとさっきの『好きだなあ』には『好きだなあ』の『音霊』なんて言葉がありますけど、音の心が入ってきます。
仮に『好きだな』と止めてしまうと、ほんとに好きそうには思えない。
『好きだなあ・・・』というと、そこにしみじみ心が乗ってくる。
そこで『上を向いて歩こう』を例にとって、母音をたっぷり伸ばして歌うとこんな感じです。
・・・・・・・
こうやって伸ばすなかで、音程を変えずに『上をむういーてー、あーるこうおーおおおー」の最後の『おー』のところは喉のヴィブラートです。
そしてこれは喉と横隔膜を混ぜたやつです。でも最後の方にこのヴィブラートをかけてってやると気持ちがすごく乗っかりますよね。
音が最後伸びたところに感情を乗っけるんですよ。
音がダーーーーっと入ってくるときというのは、頭の中でもどっちかっていうと左脳のほうを意外と刺激するんですよ。
ところがイントネーションかけた音がゆっくり入ってくると今度は右の脳が動き出すんです。そこでは人間の心・気持ち・感情、そういうものが揺さぶられはじめます。

というふうに、音というのはずーっと伸ばして揺さぶってやると心が乗りやすくなるんです。というのは私たちの身体が、脳が、そういうふうにできちゃっているからです。
だから、そこに1番ぴったりハマるようにこのヴィブラートってのをかけてやらないと、ぜーんぜんハマってこないんですよ。

『ちりめんヴィブラート』ってご存知ですか?
ちりめんみたいに細か―いシワみたいなヴィブラートがかかるからこういわれるようになったんですが、ちりめんヴィブラートって、けしてテクニックじゃないです。
もちろんテクニック的に喉で細かいヴィブラートをかけるってのはありますが、たとえば宇多田ヒカルさんとかは、ちりめんヴィブラートじゃないけど、喉のヴィブラートをすごくうまく使ってる優秀な歌手の一人だと思います。
彼女はあんまりお腹を使うんじゃなくて、喉でかけてるんですね。
ある種の、喉頭ヴィブラートを上手に使っている人です。