「ボイスチェック、ソングチェック」 Part 10 / 2.歌はレールに乗って♪

まあ、じゃあ数小節でいいのでちょっと歌ってみてください。

Aさん、歌う。

あのね、お歌というのはですね、歌うときに、、、得てしてこれ、
わたしたちがなんかいま愛されている、ということのお歌なんですけれども、
この愛されているっていう歌を誰かに伝えたい。これそもそもが作者がそう
思いはったわけですよね?
で、その作者が思われて、
「どんなときも、神さまに愛されている/そう思っている/どんなときにも
神さまに愛されている/そう思っている/手を伸ばせば届くところ・・・」
ってまあ、こんなふうにお話はつづくわけなんですけれども、この言葉をやっぱり
まずは作者が作ってくださった、言葉。
でね、歌というのは、もしくは他の方がつくられた、、、これはナレーションにも
通じるんですけれども、原稿というのがありますと、自分で作った言葉でない限りは
この「レール」ってものがあるんですね。
始まりがあって、終わりがあって、スタート地点があって、目標地点があるところまでの
このレールにあたるのがこの「歌詞」ってやつです。

要するに心、まずなんか、楽しくってもさみしくってもなんか心があるんですよね、最初。
で、その心の中で、なんかしれへんけどうれしいなあ、とか、ほんわか~とか、
なんかしれへんけど、ぽかぽか~とか。
そういうのがあったときに、「あっ、そや~。きっと愛されてんねん」っていう、、、
そういうのを誰かが歌にされたわけですね。
だから最初スタート地点でぽかぽか~と思ったら、こんなふうに愛されてるんだよ、
だからこうなんだよ、だから全然だいじょぶなんだよ、
っていうことを言いたい、ということ。
そういう起承転結がひとつのストーリーになって、それをこの歌詞というレールに乗っけて
それでまず歌というのが進んでくるんですね。

ですから、歌を歌うときの基本形の第一番です。
基本形の第一番は、思い入れっていうのをまずなくすことなんです。
「どんなときにも神さまに~」ですかね?
でね、このときに「そうか!いまじゃない、どんなときでもだ!エブリデイ!エブリタイム!
どんなときでもだー!!」と変に思い入れを強くして感情込めて歌いすぎたら、うるさいこと
このうえないわけですね。
だから、まずお歌を歌うときはほんっとに変な思いれをまず抜く、というのが基本形になります。
まずは譜面の音通りにさらっと歌うってのが一番なんですね。
で、これをどんどこどんどこどんどこやっていますと、身体に歌詞って入ってきます。
だいたい覚えてらっしゃるんですか?

はい。

ああ、なるほど。素晴らしい。
そうすると、自分とまるでこの歌詞が一体化するくらいになると、自分はもう目を瞑ってても
このレールに乗って、そのスタート地点からゴール地点まで行くことができるよ、っていう
ふうになったときに、歌っていうのがやっと自分のものになってくる、ってことになります。

で、そこでじゃあ、全然もういつでも1から10まで全部どんなときにも神さまに愛されてる
のに、なんにも思わずにただ歌詞をズベベベロンっと単調にやってたらいいのかっていうとね、
これまあちょっと悪い言い方になっちゃいますけど、お経っぽくなっちゃったりもします。
それはこう、困るわけなんですね。

じゃあ、こんどは次にはどうしたらいいのかっていうと、言葉を1個ずつさっきみたいに変に
自分で誇張するんじゃなくて、まあ、わたしたちが日本人として長いあいだ日本に生きてきたら
「どんなときにも」という、この言葉の中にはどういうようなことがあるのか、「今日か明日か
1年前か、いやいやそれがどんなときでもだいじょうぶ、どんなときにあってもいつだって」
っていう、そういうニュアンスがあることはわかってるわけなんですね。
ところが、ここがね、やっぱりお歌が上手な人とそうじゃない人、もしくはパフォーマーとして
言葉を発するのが上手な人とそうじゃない人の差が出てくるのかといいますと、その人の経験値
というのが物を言いはじます。
経験値っていうのはどういうことか。
たとえばこの歌を100回歌ってきたのか千回歌ってきたのか、それとも教会にいつも通ってて
教会でいつもミサをあげて歌ってるのか、神社に行って柏手100回打ってるのかとか、
そういうようなこともあるんですけど、それ以上にもうほんとに「愛されてんのや」というね、
そういう何かしらの感動というのを数たくさんやってる人のほうが、早い話がこの手の歌っていう
のは上手に歌える、いうことになるわけですね。

じゃあ、歌の練習やるときに、もちろんリズム間違いなくオン・ビートで乗っかって、言葉も
さっきおっしゃっていただいた母音と子音もきっちり、、、っていうのもあるんですけれども、
それ以上に、まず「愛されてる」というようなことをじんわりと感じていただく、っていうのが
これがすごく響く音になっていくっていうことになるんです。

あの、わたしも長年、この歌の仕事やってまいりました。
声、言葉の仕事もやってまいりました。
その中で、たしかにピッチがきっちりしてるっていうのは安定してて気持ちがいい、それから
エロディーもきれいになってるしリズムもはずさずに、っていったらほんとにすかん!って
入ってくる。
ところが昨今、よくテレビで、カラオケ大会みたいなことをよく歌手の方が集まって勝ち抜き
なんかでやってたりしますよね?
で、いちばん最初に元歌のある音、ほんとに一言一句と言いますか、一音一句と言いますか、
その音を全然ズラさずにきっちりピッチをのっけて、それで最初の元歌にあったようなこぶしを
かけるとか、しゃくりを入れるとか、なんかそういうような形でもうほんとにレコードとおなじ
ように歌った人がコピー技術が高い、ということで100点に近い点数をとって、それでどんどん
勝ち残っていくという、そういう番組、見はったことあります?

あまりないですけど。

たしかにおもしろいです。
おもしろいんですけれども、まあ、その歌たるや面白くないです。
だってオリジナルの曲を歌った人がですよ、やっぱり出てくるときがあるんですよ。
だからオリジナルの曲を歌った方が自分の歌を歌うと意外と91点とか2点とかそれくらいに
なるのに、そのカラオケチャンピオンとか、そのコピー技術が非常に高い人が歌うと97点、
98点になったりして、オリジナルの歌手より、後でコピーした歌手のほうが得点が高くて
勝ち上がる、いうことがあるんですね。

でも、歌ってる人のその歌声として聞いたときには、もうまっちがいなくプロのオリジナルの
方のほうが素敵なんですね。
それはどう違うのか。

要するに、その人の中でやっぱりその歌詞を書いた本人がどれだけ思い入れがあってその歌詞を
作り出したのか、でその書くに至ったときの心の具合、「愛されてんのや」「愛してんのや」
「好きやねんもん」っていうことがどこまであってその歌詞が生まれてきたかっていうことを
どれだけ理解して歌ってらっしゃるかってことになるんですね。

で、もちろんピッチが正しい、リズムが正しい、って歌も歌として音楽として、もしくは
朗読として、素晴らしいんですけれどもやっぱり、伝わらへんと話にならないわけです。
で、伝えるときってうのは、実はピッチ、それからメロディー、リズム、ビート、そういう
ようなものすべてを踏まえたうえでさらに次があるのが、これが実は「伝える/伝わる」って
ことなんですね。

わたし、この「伝える/伝わる」ってことについてはですね、えー、ほんとに、すごく長く
研究してまいりました。
そのやりかたを使っていただくと、歌がはたして、ピッチがすごくいい、高い声が出やすく
なる、裏声が、活舌が、すごく良くなる、というのは、またそれは別としても、こっちに
どん!とくるものが変わってくるっていうことをお伝えできるんじゃないかな、っていうんで
今日のボイスチェック、ソングチェックございます、はい。
ということでKさんに、まずお願いしようと思います。
ちょっとこれを朗読していただけますか?